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名作彫刻の石膏像コピーが、
美術館のメイン展示だった時代がある?

今回は、冒頭から突然クイズです。

日本の学校の美術室や美術系大学の予備校などには、ほぼ必ず古代〜近代の様々な彫刻作品(主としていわゆる西洋美術が中心ですが、仏像などアジア美術のも若干あるようです)の、多くの場合胸像や首像化された石膏像コピーがあり、静物画や石膏像デッサンなどのモデルにされていますが、実はこの古代〜ルネサンス期の名高い彫刻作品の「石膏像コピー」が西洋文明圏諸国の美術館のメイン展示だった時代があるというのは、〇でしょうか×でしょうか?

 

 

 

・・・正解は、「〇」です。但し、さすがに美術館の展示物なので元の作品が全身像である場合には石膏像コピー版も基本的に全身像になり、胸像や首像とはされませんでしたが。

 

より詳しく申しますと、近現代型美術館のいわば本場であるヨーロッパ諸国でも、イギリスの大英博物館やフランスのルーヴル美術館、ヴェルサイユ美術館などの特に歴史が古く大規模ないわば“別格の”美術館(や博物館)を除くと、創立時期(多くが18世紀末〜19世紀)には「名作という評価が定まった、古代〜ルネサンス期の彫刻作品」を教養のために鑑賞するのを主な目的として、そうした時代の著名な作品の石膏像コピーを多く展示していました。

折しも18世紀末〜19世紀初頭の西洋美術界には、古代ギリシャ・ローマの彫刻や装飾・建築様式を当世風にリバイバルさせた「新古典主義」がおこっていましたが、そのことも古代彫刻の石膏像コピー人気を高めた点は大きいです。

 

こうしたより古い時代の彫刻作品のコピーコレクションは、新古典主義の流れを汲むいわゆる「アカデミズム(当時のヨーロッパ諸国の美術の専門教育に基づく作風)」の隆盛や美術鑑賞教育に貢献した一方、「『美の規範』を築いた古代ギリシャ・ローマの後継者である、世界の文化文明的リーダーとしてのヨーロッパ」というイメージを強調し、植民地主義を文化的にバックアップした側面もあります。

 

一方アメリカでは、ヨーロッパ諸国からの移民や彼らの子孫が中心となった国作りを進めていたこともあり、「ヨーロッパ文明の継承者としての我々」という自意識を満たすためにも、こうした古代〜ルネサンス期のヨーロッパの名高い彫刻作品のコピーを使った鑑賞教育のための美術館展示が盛んでした。

 

その後19世紀末から、印象派を始めとするアカデミズムからは距離を置いた美術の諸派の勃興や写真撮影技術の向上によってより鮮明な写真を撮れるようになった(=つまり往時の名作作品の「写真による鑑賞」が可能になった)こと、その他様々な文化的政治的な価値観の変化により、20世紀半ばから後半にはそれらの多くの美術館からの石膏像コピーの(少なくとも来館者が観る場所からの)撤去や廃棄が進みました。

 

この石膏像コピー撤去に関しては、実は東京美術学校(現・東京藝術大学)の石膏像コレクションとも深い関係があります。アメリカのボストン美術館では、石膏像コピーの撤去・廃棄の動きの中で1930年代前半に石膏像コピーの廃棄を決めましたが、単に“粗大ゴミ”にしてしまうのでなく引き取り先を募集もしていました。それらの石膏像コピーのかなりの数を東京美術学校が引き取って備品としており、そのうちの何割かは現存しています。

 

なお日本では、明治期に西洋美術教育が取り入れられた際にその一環としての石膏像コピー文化も取り入れられましたが、元の西洋美術教育にあった、美術史的な事柄(例えば有名な物語の登場人物や、特定の地位にある人物などを表現する際の様々な伝統的な「お約束」としての描写=図像学など)も当然含む鑑賞教育の要素が様々な事情により抜け落ちた状態で、元の作品がどんなものであるかということの情報も曖昧なままひたすら石膏像デッサンなどテクニックのみを磨く材料にされてきたため、日本のアカデミズム美術では図像学の知識・理解や表現が稚拙を通り越して忌避すらされているという批判もあります。

 

 

<参考文献>

小田原のどか編著『彫刻SCULPTURE1 空白の時代、戦時の彫刻/この国の彫刻のはじまりへ』トポフィル、2018

荒木慎也『石膏デッサンの100年 石膏像から学ぶ美術教育史』アートダイバー、2018

 

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準デジタル・アーキビスト資格所持者
ペットセーバーベーシック・アドバンス資格所持者
せっぱつまりこ

法政大学大学院国際日本学インスティテュート修士課程修了(学術修士の学位有り)。

10代前半から美術史に、1617歳頃から葬儀・埋葬史に強い関心を持つようになるが当時は今と違いSNSやクラウドソーシングが普及しておらず、そうしたことを活かすことができないまま年月を過ごした後ウェブライターとなり、現在ではむしろクイズ原案作者を名乗る。

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