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王様に衣を掛けてあげたら処罰された。なぜ?

これ、本当だったらかなりひどい王様ですよね。

親切心を受け取れない王様であれば、臣下はおろか、人民がついて来ずに、政治もままならなかったのでは…と思ってしまいます。

 

でも、この話は「理想の君主」の具体例で出されているものなのです。

ではどういった根拠なのか、本文にあたって確認していきましょう。

高校古典の教科書にも掲載されている話なので、読んだことがある方もいらっしゃるかもしれません。

 

私の超意訳で内容を紹介してみます。

この記事の後半に出典を書いていますので、興味があればぜひ原文で読んでみてください。

 

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むかし、韓の国の王様、昭候が酔って寝ていた。

典冠(=王様の冠を管理する役職)が、王様が寒そうなのを見て、衣を掛けてあげた。

王様は起きて、そのことに感動して、側近に「誰が衣をかけてくれたのか?」と聞いた。

側近は「典冠です」と答えた。

王様は典衣(=王様の服を管理する役職)と典冠を両方とも処罰した。

典衣を処罰したのは、自分の職務を全うしなかったからだ。

典冠を処罰したのは、自分の職務を越えた範囲に手を出したからだ。(=越権行為だからだ。)

自分の職務を越えた仕事をされるのは、寒さを我慢することよりも嫌である。

理想の王様は、臣下に対して、自分の役職以上のことをして、褒美を与えるわけにはいかないし、有言不実行は絶対にしてはならないのだ。

与えられた役職以上のことをすれば処罰され、やると言ったことをやらなくても処罰される。

仕事を与えられた範囲できちんとこなし、言ったことを実行する組織であれば、

臣下が集団で君主に逆らってくるということはないはずである。

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処罰の根拠は「与えられた職務以上のことをしたから」です。

典衣も一緒に処罰されているのがなんとなくかわいそうです。

 

とはいえ、服をかけてあげるという親切心も、

臣下が王様しかできない仕事をしてしまうのも越権行為という点では同じです。

 

「小さな違反だからいいか」と一つ例外を認めてしまうと、

大きな違反との線引きが出来なくなってしまう。

上に立つ者として、有言実行しないほど信頼を失うものはない、と主張しています。

 

これは『韓非子』に収められている話です。

韓非子の紹介をしておきましょう。

 

中国の春秋戦国時代の政治家・思想家の一人で、

中国古典文学史や、大学受験世界史・倫理などで、

儒家の孔子、道家の老子・荘子と並んで、法家の韓非子と覚えた記憶がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

孔子が家族愛や道徳に基づいた政治をよしとしたのに対し、

韓非子の法家は「とにかく法・ルールが大事。守らないやつは処罰。例外はない!」というのが基本スタンスでした。

(超アバウトなまとめです。あしからず!)

 

韓非子は韓という国に生まれます。

生まれながらの吃音だったそうで、王様に会って、

自分の考えを直接述べていた当時の思想家としてはかなり不利でした。

 

しかし、その分文章がとてもうまくてわかりやすい。

身近な事例から「君主とはこうあるべき」というモデルケースを示してくれます。

 

結局自分の母国である韓ではこの考えは受け入れてもらえないのですが、

後に、韓の敵である秦の始皇帝に法家の考え方が受け入れられることになりました。

厳しさ故か、秦は短い期間で滅亡してしまいますが、

秦は度量衡や貨幣、文字の統一など今も残っている合理的な政策を行っています。

 

ビジネス書として中国古典を読むことが流行していますが、

他の思想家に比べて韓非子の教えはかなり具体的で現実的です。

厳しすぎると反発があるのは今も昔も変わらないでしょうが、

現代でも生かせる、人の上に立つ心構えを説いています。

興味があれば入門書からでもぜひご一読を!

一介の予備校国語講師
ことのは

大阪府出身・在住。
同志社大学文学部国文学科卒業。
現在は予備校で(比較的)新人講師として勤務。
担当ジャンルは【古典文学】

授業では、本編よりも脱線話の方がウケて悲しい反面、過去の自分もそうだったので生徒を責められません。小ネタを収集する日々です。

基本どんなジャンルでも興味あり!
でも、結局言葉(=ことのは)のもつ魅力から逃れられずここまで来てしまいました。
尊敬する人は中2のときからロザンの宇治原さん。好きなことは、得意ジャンルが全く違う同居人とクイズ番組を見ながらやいやい言うこと。

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