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最高神の姿以上の超人的なイメージの神話的肖像とは?

筆者は西洋美術史の中でも興味深い作例として、いわゆる神話的肖像(像主(モデル)を神話の登場人物になぞらえた姿に描く肖像画や彫像)を複数回テーマにしておりますが、像主の傑出した偉大さを讃えるケースで多いのが像主をギリシャ神話の最高神ゼウス(ローマ名ユピテル)になぞらえた作品です。伝統的には国家元首がそうした像主になっていましたが、20世紀に入ると(例えば何度か筆者がテーマにしているクリンガーの『ベートーヴェン像』のように)芸術系の巨匠もゼウスになぞらえられるようになってきます。

ところで、話題をより古い時代に戻しましょう。ここで突然クイズですが、前近代の国家元首=君主を傑出した偉大な人物として演出する神話的肖像の描き方にはこうした最高神になぞらえた姿の他に、最高神以上の超人的なイメージを演出する表現があったというのは、マルでしょうかバツでしょうか?

 

・・・正解は、何と「マル」です。

より具体的にいうと、「1人の像主が複数のギリシャ神話の登場人物のアトリビュート(神話や聖書など有名な物語の特定の人物を描く際、一種の「お約束」としてほとんど常に一緒に描かれる品物や動植物など)を持って描かれる」タイプの神話的肖像です。

要するに像主を「複数のギリシャ神話の神の合体キャラ」として描いているわけですが、このタイプの作品で興味深いのは、しばしば男性像主も女性像主も男神のアトリビュートと女神のアトリビュートを両方持って描かれる点です。

例えば1552〜72年の間にイタリア出身の画家デッラバーテによって描かれたフランス王フランソワ1世の神話的肖像は、カドゥケウス(ケリュケイオンとも。伝令であることを示す杖であり、伝令と商業の神ヘルメス(ローマ名メルクリウス)のアトリビュート)と剣(戦いの神アレス(ローマ名マルス)のアトリビュート)、角笛(月と狩猟の女神アルテミス(ローマ名ディアナ)のアトリビュート、弓矢(愛の神エロス(ローマ名クピドあるいはアモル)のアトリビュート)を持ち、胸に怪物メデューサの顔の紋様のある甲冑(知恵の女神アテナ(ローマ名ミネルヴァ)のアトリビュート)と翼の飾りのあるサンダル(ヘルメスのアトリビュート)を着用した姿であり、よく見ると女性的な印象も受けるボディーラインに描かれています。

<フランソワ1世像>

また、1640年代にフランスの画家ヴーエにより描かれたフランス王ルイ13世の妃でルイ14世の母であるアンヌ・ドートリッシュの神話的肖像画は、フクロウ(アテナのアトリビュート)を連れ胸にメデューサの顔の紋様のある甲冑を着用した姿でありアテナになぞらえられていますが、頭には月桂冠(太陽と芸術の神アポロンのアトリビュート。後世には芸術の女神姉妹ムーサのアトリビュートや最高神ゼウスのアトリビュートとされることもあります)をかぶっており、矢張り女神と男神のアトリビュートを持って描かれているといえます。

<アンヌ・ドートリッシュ像>

このように君主(あるいは実質的な最高権力者としての君主の妃や母)が複数の神、特に男神と女神両方になぞらえられた背景には、一つにはルネサンス期に起こったネオ・プラトニズムという多神教と一神教を融合した考え方に由来する「『両性具有体』こそが、完全な存在である」という発想があります。そういえば以前にも、『ヘラクレスとオンファーレ』をテーマにした神話画では本来なかった「衣装交換による、ヘラクレスの女装とオンファーレの男装」という小ネタが16世紀の終わり頃に登場したことを指摘しましたが、矢張りこれにも「『両性具有体』化のテーマ」としての側面があったと考えられます。

なお、こうした「『両性具有体』化した国家元首の神話的肖像」は近代に入るといわゆる「近現代型男らしさ/女らしさ規範」にそぐわないとされ、姿を消します。これは筆者が個人的にふと思ったことですが、もしこの「『両性具有体』化した姿に表現することによって、像主の超人的な偉大さを演出する」タイプの神話的肖像の伝統が近代以降も存続していたら、もしかしたらクリンガーの『ベートーヴェン像』も男神と女神両方になぞらえられていたかも知れません。

 

 

 

 

<参考文献>

池上英洋『死と復活 「狂気の母」の図像から読むキリスト教』筑摩選書、2014

オード・ゴエミンヌ、ダコスタ吉村花子訳、松村一男監修『世界一よくわかる! ギリシャ神話キャラクター事典』グラフィック社、2020

Pinterest

https://www.pinterest.co.uk/pin/131730357823370154/

Web Gallery of Art

https://www.wga.hu/index.html

画像2点のうち、フランソワ1世像はPinterest、アンヌ・ドートリッシュ像はWeb Gallery of Art 出典です。

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準デジタル・アーキビスト資格所持者
ペットセーバーベーシック・アドバンス資格所持者
せっぱつまりこ

法政大学大学院国際日本学インスティテュート修士課程修了(学術修士の学位有り)。

10代前半から美術史に、1617歳頃から葬儀・埋葬史に強い関心を持つようになるが当時は今と違いSNSやクラウドソーシングが普及しておらず、そうしたことを活かすことができないまま年月を過ごした後ウェブライターとなり、現在ではむしろクイズ原案作者を名乗る。

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