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クラーナハの『パリスの審判』。勝者である美の女神はどの人物?

筆者は「美術史」シリーズで、西洋美術で神話や聖書など有名な物語を題材にした作品では、伝統的に特定の人物を描く場合「アトリビュート(持物)」といって、特定の品物や動植物などがほとんど常に“お約束”として一緒に描かれる伝統があるということに何度か言及しています。

しかしこの「伝統的な〜」という言葉も実際には、洋の東西を問わずしばしば基準が曖昧であり、中には近現代に入って新しく作られた「伝統」や、原型と思われるものは比較的過去の時代にあったが一度忘れられ、新しい時代に入って新解釈により「再創造」された「伝統」もあります。この西洋美術史の中の「アトリビュート」の扱いも、特にギリシャ神話を題材にした美術作品の場合などでは時間をかけて確立したり、時代の変化で追加・省略されたりすることが結構あります。

そうした中でも特に興味深い例として、有名な「トロイア戦争」の発端になったエピソード「パリスの審判」を題材にした神話画でのアトリビュートの扱いの変化が挙げられます。このエピソードは簡潔にいうとこのようなものです。

海の女神テティスと人間の男性ペレウス(英雄アキレウスの両親)の結婚式に1人だけ招かれなかった不和の女神エリス(ローマ名ディスコルディア)が嫉妬し、「最も美しい女神へ」として黄金のリンゴを贈ったところ神々の女王ヘラ(ローマ名ユノ)、知恵の女神アテナ(ローマ名ミネルヴァ)、愛と美の女神アフロディーテ(ローマ名ウェヌス)がそれは自分にこそふさわしいと主張したので、誕生前に神託で「トロイアを滅ぼす原因になる」と告げられたため羊飼いの家で育てられたトロイア王子のパリスに判定させることになりました。自分を選んでもらうためヘラは世界の覇者の座を、アテナは全ての戦いでの勝利を、アフロディーテは人間界一の美女と結ばれることを約束し、結局パリスはアフロディーテを選ぶわけですが、その後に彼と結ばれた人間界一の美女というのがスパルタの王妃ヘレネであったため、彼女の夫のスパルタ王メネラオスがギリシャ諸国連合軍を率いてトロイアに宣戦布告したのでした。

3人の女神がパリスの前にやってきて美しさのアピールをする場面は、中世〜ルネサンス初期には(この頃には、ギリシャ神話の登場人物は当代(その絵が描かれた時代)の服装で描かれていたので)当代の流行の先端のファッションの女性像を、盛期ルネサンス〜近現代には女性ヌードを描く機会という側面もあったので人気の高いテーマでした。興味深いのは、「当代風パリスの審判」では3人の女神のアトリビュートはほとんど描かれず(従って、3人の女神は誰が誰であるかはっきりとはわからず)、一見すると中世ヨーロッパを舞台にした、貴公子に求婚(?)する3人の貴婦人を描いた絵のように見える点です(但し中には、ヘラの衣装の模様が孔雀(ヘラの聖鳥でアトリビュート)の羽根柄であるケースもありますが)。

その後に3人の女神がヌードに描かれるようになると、例えばこのバロック時代を代表する画家の一人であるルーベンスの手になる『パリスの審判』のように、アトリビュートが描かれるようになります。

『パリスの審判 』ルーベンス

この3人が誰であるかは、向かって一番左のアテナは武具や甲冑をそばに置いて聖鳥のフクロウ(よく見ないとわからない場所にいますが)を連れていることで、真ん中のアフロディーテは子息ともいわれる愛の神エロス(いわゆるキューピッド)を連れていることで、右のヘラは孔雀を連れていることでわかります。

ところで、ルーベンスより約100年前に活躍したドイツ盛期ルネサンスの画家クラーナハはいわば当世風と古代風の折衷版ともいうべき『パリスの審判』を何バージョンか描いたわけですが、誰がどの女神なのかはっきりとわからないように描かれているものがある中、数少ない「誰がいわばメインヒロインであるアフロディーテなのかがはっきりわかる」ものもあります。それはこちらです。

『パリスの審判』クラーナハ

ここでクイズですが、そのアフロディーテはどの女性でしょう?

 

1、向かって一番左の、パリスに向かい合って何か話しかけている女性。

2、真ん中の、華やかな帽子を被って上の方を指差す女性。

3、一番右の、後ろ姿を見せ、振り返っている“見返り美人”の女性。

 

・・・正解は、2番の「真ん中の女性」です。

「Web Gallery of Art 」のこの絵の解説によれば、ウェヌス(つまりアフロディーテ)は上空から縁結びの力を持つ矢を射る子息のキューピッドを指差すことで、彼女が勝者となることを示しているそうです。とすると、彼女が被る帽子は「この場面での勝者というか、メインヒロインであること」を示すものになります。なお、残る2人のどちらがヘラでどちらがアテナなのかは不明です。

 

 

<参考文献>

オード・ゴエミンヌ、ダコスタ吉村花子訳、松村一男監修『世界一よくわかる! ギリシャ神話キャラクター事典』グラフィック社、2020

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葬儀・埋葬史及び美術史マニア
ペットセーバーベーシック・アドバンス資格所持者
せっぱつまりこ

法政大学大学院国際日本学インスティテュート修士課程修了(学術修士の学位有り)。

10代前半から美術史に、1617歳頃から葬儀・埋葬史に強い関心を持つようになるが当時は今と違いSNSやクラウドソーシングが普及しておらず、そうしたことを活かすことができないまま年月を過ごした後ウェブライターとなり、現在ではむしろクイズ原案作者を名乗る。

日本ネットクリエイター協会会員。

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